
シェイクスピアの『ハムレット』は、世界中で長く親しまれている名作です。1600年前後のエリザベス時代に書かれたこの戯曲は、400年以上たった今でも多くの人の心を惹きつけています。この記事では、有名なセリフやヒロイン・オフィーリアの死、主人公ハムレットの奇妙な行動の理由、物語のあらすじ、シェイクスピアの「四大悲劇」について、読み解いていきます。
「To be, or not to be...」—有名なセリフとその意味

「To be, or not to be, that is the question(生きるべきか、死ぬべきか――それが問題だ)」は、『ハムレット』で最も有名なセリフであり、シェイクスピア作品の中でも特に広く知られています。これはハムレットが自分の生き方について深く悩み、心の内を語る場面で登場します。
彼は「人生の苦しみから解放されるには死を選ぶべきかもしれないが、死後の世界がどうなっているのかわからない。その不安があるからこそ、人は苦しみに耐えて生き続けるのだ」と考えます。死に惹かれながらも、それを選べないという人間の葛藤を描いた名シーンなのです。ここには、生きる意味や人間の弱さといった、共感を呼ぶテーマが込められています。
オフィーリアの死因

ハムレットの恋人オフィーリアも、この物語の中で重要な役割を果たしています。彼女の死は舞台上で直接描かれることはなく、王妃ガートルードによって語られます。話によると、オフィーリアは川辺で花を摘もうとして木に登り、枝が折れて川に落ち、そのまま溺れてしまいます。彼女は水に沈んでいく間も歌を口ずさんでいたとされ、その光景はとても詩的で幻想的です。
彼女の死が事故なのか自殺なのか、劇中でははっきりしていません。父ポローニアスをハムレットに殺され、恋人からも拒絶されたオフィーリアは、心を病み、正気を失っていたと描かれます。その精神状態を考えると、悲しみによる自死の可能性も否定できません。
野の花を配るシーンは「純潔の喪失」を、川に沈んでいく最期は「無垢な魂が現実に押しつぶされる様子」を表しているとも言われています。
絵画『オフィーリア』でも有名になったように、彼女の死は文学・芸術の世界で多くのインスピレーションを与えてきました。
参考:山田五郎 オトナの教養講座 川で何してるの?【オフィーリア】
ハムレットはなぜ狂気を装ったのか?

『ハムレット』の物語の中で、ハムレットが狂ったような振る舞いをするのも印象的な場面です。実は彼の「狂気」は、本物の精神の病ではなく、意図的な演技なのです。
その理由は、父王の死の真相を探り、復讐を果たすための策略です。ハムレットは、父の幽霊から「叔父クローディアスによって毒殺された」と聞かされます。しかし、証拠もなく直接行動に出るのは危険です。そこで、周囲の目を欺くために、あえて正気を失ったふりをすることにしたのです。
狂ったふりをすることで、敵に本心を悟らせず、油断を誘います。さらに、旅の劇団を使って父の死の再現劇を上演させ、クローディアスの反応から罪を確信するという冷静さも見せています。
ハムレットが抱える心の痛みや不安は本物であり、演技と本音の境界が曖昧になっていく様子もうかがえます。恋人への乱暴な言動や母親への怒りなど、内面の葛藤がにじみ出る場面も多く、彼の複雑な心理がリアルに描かれています。
【ハムレット】のあらすじ
物語の舞台は中世のデンマーク王国。国王が急死した直後、王妃ガートルードは、亡き王の弟であるクローディアスと急速に再婚し、彼が新たな王に即位します。この展開に深い疑念と不信感を抱くのが、若き王子ハムレットです。

そんな中、城の見張りたちが亡霊の出現を目撃します。現れた亡霊はなんと、亡き国王の姿をしており、その正体を確かめるためにハムレットもその場に向かいます。亡霊はハムレットに自分こそが父王であり、弟クローディアスによって毒殺されたと明かし、復讐を命じます。
激しい怒りと混乱に包まれながらも、ハムレットはすぐに行動に移るのではなく、冷静に状況を見極めるために一計を案じます。彼は周囲に疑念を抱かせぬよう、正気を失ったふりをしながら情報を集め始めるのです。この“狂気の演技”が物語をより複雑にし、登場人物たちの思惑が交錯していきます。

やがて、ハムレットは旅の劇団を招き、父王殺しの内容を含む劇を上演させます。クローディアスの様子を観察することで、真相を確信し復讐の決意を強めます。
しかし、運命は皮肉な方向へと動きます。母ガートルードの部屋で対話中、ハムレットはカーテンの陰に潜んでいた宰相ポローニアス(恋人オフィーリアの父)をスパイと勘違いして刺殺してしまいます。この誤殺は多くの悲劇の引き金となり、恋人オフィーリアは父を亡くしたショックから正気を失い、川で命を落としてしまいます。
一方、クローディアスはハムレットを国外追放と見せかけてイングランドへ送り出し、その途中で彼を暗殺させようとしますが、ハムレットは見事に計略を見破り、帰還します。
その頃、オフィーリアの兄レアティーズは妹の死を知り激怒し、クローディアスと手を組んでハムレットに決闘を仕掛けます。剣には毒が塗られ、さらに毒入りの酒も用意されているという、まさに命をかけた罠が張り巡らされた決闘です。
激しい戦いの末、毒剣によってハムレットとレアティーズは互いに致命傷を負い、毒酒を口にした王妃ガートルードも命を落とします。死の間際、レアティーズはすべての真相を明かし、ハムレットはついにクローディアスを討ち果たします。
ハムレットは最後に、親友ホレイシオにすべての真実を語り継いでほしいと頼み、静かに息を引き取ります。舞台は血に染まり、物語は壮絶な終焉を迎えるのです。
シェイクスピアの「四大悲劇」

『ハムレット』は、シェイクスピアの「四大悲劇」と称される代表的悲劇の一つです。他の三つの作品とあわせて紹介します。
- 『オセロー』 – ヴェニスの黒人将軍オセローを主人公とする悲劇。奸臣イアーゴーの策略によって、オセローは妻デスデモーナの不貞を疑い狂おしい嫉妬に駆られ、最終的に愛する妻を自ら手にかけてしまいます。嫉妬という人間の弱さが悲劇を招く物語です。
- 『マクベス』 – スコットランドの将軍マクベスの悲劇。魔女の予言と野心的な妻のそそのかしにより、マクベスは主君を殺して王位を奪います。しかしその野心と罪の意識から疑心暗鬼に陥り、更なる殺人を重ねた末に破滅していきます。権力への欲望と良心の葛藤がテーマです。
- 『リア王』(キング・リア) – 年老いたブリテン王リアの悲劇。王位を娘たちに譲ろうとしたリア王は、愛を言葉巧みに語った姉二人に国を任せ、忠実だった末娘コーディリアを追放してしまいます。その結果、邪悪な娘たちに裏切られたリア王は狂気に陥り、家族と王国は崩壊します。親子の愛憎と愚かさが壮絶に描かれた物語です。
『ハムレット』を含む四大悲劇はいずれも、高貴な主人公が内面的な弱さや過ち、運命の皮肉によって破滅に至る物語です。例えばハムレットは優柔不断さゆえに悲劇を長引かせ、オセローは嫉妬心に負け、マクベスは野心に溺れ、リア王は判断を誤ります。それぞれテーマや舞台設定こそ異なりますが、人間の抱える弱さや苦悩がドラマチックに描かれている点は共通しています。また、主要人物が次々と命を落とす救いのない結末も四大悲劇の大きな特徴でしょう。それでも不思議と後味の悪さよりもカタルシス(精神的な浄化)を感じさせるのは、シェイクスピアの筆致が見事であり、読者・観客に深い余韻と思索の材料を残すからだと言えます。
さいごに:【ハムレット】が愛される理由
シェイクスピアの『ハムレット』は、複雑な人物描写、緻密に練られたプロット、そして復讐・狂気・生と死といったタイムレスなテーマによって、今なお多くの人々を魅了しています。
ハムレットという人物の苦悩や心理描写は非常に深く、人間とは何か、生きる意味とは何かといった根源的な問いを投げかけてきます。
事実、『ハムレット』は四百年以上にわたり世界中の舞台で上演され続け、映画化や翻案も数多く作られています。
『ハムレット』は悲劇ではありますが、読後や観劇後には不思議と心に残るものが多く、何度も味わいたくなる奥深さがあります。
『生きるべきか、死ぬべきか』、人の心に静かに問いかけ続けます。